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最高裁判所第三小法廷 平成8年(オ)1056号 判決 1996年11月12日

上告人

坂本眞敏

上告人

岡本淨子

右両名訴訟代理人弁護士

齋藤護

被上告人

播磨興産株式会社

右代表者代表取締役

山地勝

右訴訟代理人弁護士

上野勝

加納雄二

水田通治

林佐智代

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

原審及び当審の訴訟費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人齋藤護の上告理由について

一  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、不動産の売買等を目的とする株式会社であり、兵庫県佐用郡に別荘地を開発し、いわゆるリゾートマンションである佐用コンドミニアム(以下「本件マンション」という)を建築して分譲するとともに、スポーツ施設である佐用フュージョン倶楽部(以下「本件クラブ」という)の施設を所有し、管理している。

2(一)  上告人らは、平成三年一一月二五日、被上告人から、持分を各二分の一として、本件マンションの一区分である本件不動産を代金四四〇〇万円で買い受け(以下「本件売買契約」という)、同日手付金四四〇万円を、同年一二月六日残代金を支払った。本件売買契約においては、売主の債務不履行により買主が契約を解除するときは、売主が買主に手付金相当額を違約金及び損害賠償として支払う旨が合意されている。(二) 上告人坂本眞敏は、これと同時に、被上告人から本件クラブの会員権一口である本件会員権を購入し(以下「本件会員権契約」という)、登録料五〇万円及び入会預り金二〇〇万円を支払った。

3(一)  被上告人が書式を作成した本件売買契約の契約書には、表題及び前書きに「佐用フュージョン倶楽部会員権付」との記載があり、また、特約事項として、買主は、本件不動産購入と同時に本件クラブの会員となり、買主から本件不動産を譲り受けた者についても本件クラブの会則を遵守させることを確約する旨の記載がある。(二) 被上告人による本件マンション分譲の新聞広告には、「佐用スパークリングリゾートコンドミニアム(佐用フュージョン倶楽部会員権付)」との物件の名称と共に、本件マンションの区分所有権の購入者が本件クラブを会員として利用することができる旨の記載がある。(三) 本件クラブの会則には、本件マンションの区分所有権は、本件クラブの会員権付きであり、これと分離して処分することができないこと、区分所有権を他に譲渡した場合には、会員としての資格は自動的に消滅すること、そして、区分所有権を譲り受けた者は、被上告人の承認を得て新会員としての登録を受けることができる旨が定められている。

4(一)  被上告人は、本件マンションの区分所有権及び本件クラブの会員権を販売するに際して、新聞広告、案内書等に、本件クラブの施設内容として、テニスコート、屋外プール、サウナ、レストラン等を完備しているほか、さらに、平成四年九月末に屋内温水プール、ジャグジー等が完成の予定である旨を明記していた。(二) その後、被上告人は、上告人らに対し、屋内プールの完成が遅れる旨を告げるとともに、完成の遅延に関連して六〇万円を交付した。上告人らは、被上告人に対し、屋内プールの建設を再三要求したが、いまだに着工もされていない。(三) 上告人らは、被上告人に対し、屋内プール完成の遅延を理由として、平成五年七月一二日到達の書面で、本件売買契約及び本件会員権契約を解除する旨の意思表示をした。

二  本件訴訟は、(1) 上告人らがそれぞれ、被上告人に対し、本件不動産の売買代金から前記の六〇万円を控除し、これに手付金相当額を加えた金額の半額である各二三九〇万円の支払を、(2) 上告人坂本が、被上告人に対し、本件会員権の登録料及び入会預り金の額である二五〇万円の支払を請求するものである。

原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人らの請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人らの請求をいずれも棄却した。すなわち、(一) 本件不動産と本件会員権とは別個独立の財産権であり、これらが一個の客体として本件売買契約の目的となっていたものとみることはできない。(二) 本件のように、不動産の売買契約と同時にこれに随伴して会員権の購入契約が締結された場合において、会員権購入契約上の義務が約定どおり履行されることが不動産の売買契約を締結した主たる目的の達成に必須であり、かつ、そのことが不動産の売買契約に表示されていたときは、売買契約の要素たる債務が履行されないときに準じて、会員権購入契約上の義務の不履行を理由に不動産の売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。(三) しかし、上告人らが本件不動産を買い受けるについては、本件クラブの屋内プールを利用することがその重要な動機となっていたことがうかがわれないではないが、そのことは本件売買契約において何ら表示されていなかった。(四) したがって、屋内プールの完成の遅延が本件会員権契約上の被上告人の債務不履行に当たるとしても、上告人らがこれを理由に本件売買契約を解除することはできない。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1  前記一4(一)の事実によれば、本件クラブにあっては、既に完成しているテニスコート等の外に、その主要な施設として、屋外プールとは異なり四季を通じて使用の可能である屋内温水プールを平成四年九月末ないしこれからそれほど遅れない相当な時期までに完成することが予定されていたことが明らかであり、これを利用し得ることが会員の重要な権利内容となっていたものというべきであるから、被上告人が右の時期までに屋内プールを完成して上告人らの利用に供することは、本件会員権契約においては、単なる付随的義務ではなく、要素たる債務の一部であったといわなければならない。

2  前記一3の事実によれば、本件マンションの区分所有権を買い受けるときは必ず本件クラブに入会しなければならず、これを他に譲渡したときは本件クラブの会員たる地位を失うのであって、本件マンションの区分所有権の得喪と本件クラブの会員たる地位の得喪とは密接に関連付けられている。すなわち、被上告人は、両者がその帰属を異にすることを許容しておらず、本件マンションの区分所有権を買い受け、本件クラブに入会する者は、これを容認して被上告人との間に契約を締結しているのである。

このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。

3  これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。

四  したがって、上告人らが本件売買契約を解除することはできないとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決は正当として是認すべきものであって、被上告人の控訴を棄却すべきである。

よって、原判決を破棄して被上告人の控訴を棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人齋藤護の上告理由

一、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

すなわち、民法第五五五条により本件佐用スパークリングリゾートコンドミニアム(佐用フュージョン倶楽部会員権付)売買契約(以下、本件契約という)は、右コンドミニアムの一区分の売買契約と施設利用権たる会員権契約が一体不可分になったものと解すべきであるから、同法第五四一条を適用して、施設(屋内プール)を建設してこれを利用に供すべき債務の不履行は一体としての本件契約の解除事由になると解すべきは当然である。

しかるに、原判決は同条の解釈を誤って「本件不動産と本件会員権とは財産権としては別個独立のものであり、売買契約の客体としても別個のものであることは明らかであって、『会員権付きのコンドミニアム』というのは通俗的かつひゆ的な表現にすぎないから、本件不動産と本件会員権とが一個の客体として本件売買契約の目的となっていたものとみることはとうていできない。すなわち、法律的には、本件契約は本件不動産の売買契約と本件会員権の購入契約の二個の契約より成り、両契約が『一体のもの』と認めることはできないというべきである。」として同条を適用しなかった。

しかしながら、本件契約は、

① 本件コンドミニアムは、被上告人が造成し、所有する佐用スパークリングリゾートと称する約五〇〇平方メートルの区域内にゴルフ場、テニスコート、屋外プール等の施設とともに配置されていること、

② 被上告人作成の新聞広告に「佐用コンドミニアム(佐用フュージョン倶楽部会員権付)」とあり、売買契約書の表題にも「佐用スパークリングリゾートコンドミニアム(佐用フュージョン倶楽部会員権付)と表示されていること、

③ 宅地建物取引業法に基づく重要事項説明書においても、買主は、本マンション購入と同時に「佐用フュージョン倶楽部」の会員となり、転売したときは、その譲受人に倶楽部の会則を遵守させることを確約することが注意事項として明記されていること、

④ コンドミニアムの区分所有権を取得しようとする者は、被上告人との間で、フュージョン倶楽部の会員となって入会金、登録料を被上告人に支払い、かつ本件コンドミニアムを転売した場合はその譲受人にも倶楽部の会則を遵守させる義務のあることが明記されている契約書に調印しなければならず、上告人らもこれに従ったこと、

⑤ 倶楽部の会則には、コンドミニアムの区分所有権は倶楽部会員権付であり、これらを分離して処分し得ず、倶楽部の会員がコンドミニアムを他に譲渡した場合、会員としての資格は自動的に消滅する旨定められていること、

⑥ コンドミニアムの売買契約と同時に「佐用スパークリングリゾート」内の道路、上下水道施設、公園等の諸施設の維持管理契約を締結して、その管理費を支払わなければならないこと、

等の事実を総合すれば、本件コンドミニアムの購入者が、そこに滞在しながら、その周辺にあるスポーツ施設等を利用することが当然のこととして予定され、その前提としてコンドミニアムの区分所有権と倶楽部会員権がその成立から消滅まで終始運命を一にするものとされているのであるから、本件コンドミニアム売買契約と本件会員権契約は不可分的に一体化したものであり、これを分離して考えるべきではないのである。

本件と同種事案については、下級審ながら次のような裁判例がある(東京地裁平成四年七月二七日判決、判例時報一四六四号七六頁、金融法務事情一三五四号四六頁)。

この裁判例の事実の概要は次のようなものである。すなわち、Yが地上九階・地下一階建ての不動産を共有持分に小口化して分譲するとともに買受人から賃借してスポーツ施設として利用し、買受人に対して家賃として年四%を支払う旨の条件で販売をした。Xは持分三〇口の購入契約をした。しかるところ、Yは当初は年四%の家賃を支払っていたが、その後経営が苦しくなったことから、これを年二%に減縮した。このため、XはYの債務不履行を理由に当初の持分の売買契約を解除し、代金の返還を求めたものである。

これに対して、同裁判所は次のとおり判示した。

「右のとおり、原告が被告と本件持分に関し締結した契約は、本件持分を被告が原告に売り渡す旨の売買契約と、本件持分の賃貸借契約とが一個の契約となっており、形式上、両者は別個独立の契約とみられないことはない。被告は、これを根拠に、仮に被告が約定金額の賃料を支払わなかったことにより、賃貸借契約が解除となっても右解除の効力は売買契約には及ばない旨主張する。なるほど本件契約は、契約書の体裁の上からは本件持分に関する売買契約の部分と、これを対象とした賃貸借契約の部分とに分かれ、しかも契約解除に関する条項は、売買契約に関する条項の一つとして規定され、賃貸借契約に契約違反があっても当然に売買契約の解除が可能なようには規定されていないように解されないではない。

しかし、被告は、本件契約締結の一般向けの勧誘に当たり、前記一1のように本件契約の主眼が一口当たり四パーセントの家賃収入ないし売上収益の分配にあるかのような宣伝を行い、右宣伝あるいは右契約書においても、一口当たり一万二〇〇〇円の賃料を責任をもって支払い、増額に努力する旨を確約していることからすると、原告も主としてこのことに期待して本件契約を締結したものであって、本件持分を売買により取得すること自体は、単に右投資の手段にすぎず、このことに固有の利益ないし関心があったわけではないことは明らかである。そうすると、本件契約は、本件持分を買い受ける方法により出資し、これに対し相当の利益配分を受ける旨の、本件持分の売買と賃貸借契約が不可分に結合した一種の混合契約であるとみるのが相当であって、右契約が形式上売買契約の部分と賃貸借契約の部分とに分かれている体裁をとっているからといって、後者の債務不履行が前者の解除事由に当たらないとすることは相当でないというべきである。

そして、被告は、契約書上も一口当たり年額一万二〇〇〇円の賃料を支払い、減額を行わない旨を確約しているから、これに反して年額六〇〇〇円の賃料しか支払わないことは明らかに右契約に違反することになり(括弧内略)、原告は、本件契約の解除条項に基づき、本件契約を解除することができるというべきである。」

これが法律の正しい解釈というものである。本件の原判決と較べて、いずれが真の法解釈といい得るかは、法律の素人にも分かることである。原判決のように、紛争の実情に目を暝り(おそらくは一審の記録を十分に読むこともせず)、徒に硬直した形式論理のみで事を処理しようとするのは、法解釈の名に値しない軽挙であり、司法の名を辱めるものであるといって過言ではない。

二、原判決は、法令違背があるのみならず、世間公知の経験則にも反している。

現代社会は日を追って複雑多様化し、時代とともに契約の内容も変化を遂げている(我妻榮「債権各論中巻二」八八三頁)。

本件のような不動産の所有権と施設の利用権が一体となった契約形態も時代の所産である。今や不動産とリゾート施設の利用権がセットになった財産権を売ったり買ったりすることは、世間ではごく普通のこととして認識されてきている。

原判決は、「会員権付きのコンドミニアムというのは通俗的かつひゆ的な表現にすぎない」などと意味不明のことをいっているが、これは自らの無知と世間一般の認識からのずれを自白しているに等しいことである。

そして、こうした契約を無理矢理法律的には別個のものであるという。全く常識外れの馬鹿げた判断であるとしか評しようがない。正しい主張がこうした世間知らずの裁判官によって遮断されるようでは、被上告人のような欺瞞的商法を行う業者がこれからも大手を振って罷り通り、一方司法に対する信頼はますます薄らいで行くに相違ない。

三、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな重大な事実の誤認がある。

すなわち、原判決は「被控訴人両名の本件尋問の結果によれば、被控訴人らとしては、屋内プールを利用することが本件不動産購入の重要な動機となっていたことが窺われないではないけれども、証人中村信行の証言及び被控訴人両名の本人尋問の結果によれば、被控訴人らとしては、本件不動産売買契約を締結するまでの間にその旨を控訴人側に表明したことはなく」と認定しているが、これは全くの誤認である。

すなわち、上告人坂本の原告本人調書によれば、「一一月二日に、現地を見に行ったときに、被告側の方では、佐用の土木課の中村課長が、応対に出られて、その時、私の購入の動機となった屋内プールとジャグジーのことが、話題に出ました。それで、中村課長に、屋内プールができる予定地を案内してもらいました。」(二項)、「この日は、この後に、中村部長にもお会いして、屋内プールについての質問をしました。その時は、いつできるのかとか、大きさ、広告では『来年の九月』ということになっていましたので、その確認等の話をしました。中村部長は、『来年の九月に出来上がります。ジャグジーという施設も利用できます。』と言っていました。」(四項)、「屋内プールがいつできるということを話をして、購入した覚えがあります。」(二七項)とあり、また同岡本の調書にも「本件コンドミニアムを購入するにいたった動機、施設等の利用の関係については、原告坂本の陳述書や坂本の本件訴訟での証言と同じです。」(二項)とあり、両名の証言等を総合すれば、屋内プールを利用し得ることが本件契約を締結する動機の中心であったのであり、そのことを契約締結前に被上告人側に表明していたことは明らかなのである。

さらにいえば、被上告人は、新聞広告や案内書の中に、テニスコート、屋外プール等のほかに屋内プール、ジャグジー、ラウンジの施設が平成四年九月までに完成予定であると明記し、これらの施設を利用できることを売りものにして購入を勧誘したのであるから、当然売買契約締結時にこれらの事項が合意内容に含まれていたと解されるのである。

そして、右事実認定に基づけば、最高裁昭和四三年二月二三日判決と同様、仮にそれが付随的約款であって、本来契約締結の目的に必要不可欠のものでないとしても、右約款の不履行を理由として売買契約を解除することができることになるのである。

四、以上、いずれの点よりするも原判決は違法であり、破棄さるべきである。

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